シンガポール駐在から現地採用に切り替えるには(帰任せずに残る場合)
最終確認:2026年9月29日
帰任の辞令が出たけれど、シンガポールに残って働き続けたい。そう考える駐在員は少なくありません。帰任せずに残るには、現地の会社に雇われ直し、その会社で新しい就労パスを取る必要があります。この記事では、MOM(人材開発省)、IRAS(内国歳入庁)、CPF の公式の案内をもとに、駐在から現地採用に切り替えるときの流れと、駐在員ならではの注意点を整理します。
駐在と現地採用の違い
駐在員は、日本の会社に籍を置いたまま(出向などの形で)、会社の命令でシンガポールの拠点に赴任している立場です。就労パスは、シンガポールの法人(またはスポンサー)が申請しているのが一般的です。赴任の期間や帰任の時期は、基本的に会社が決めます。住居や子どもの教育、一時帰国などについて、会社の規程にもとづく手当や補助が用意されていることが一般的です。
現地採用は、シンガポールの会社と本人が直接雇用契約を結ぶ働き方です。勤務地や任期は契約で決まり、帰任という考え方はありません。給与や福利厚生は、その会社の規程と個別の契約で決まります。駐在時と同じ手当がそのまま付くとは限らず、住居や教育費を自分で負担する前提になることも多いです。
| 項目 | 駐在 | 現地採用 |
|---|---|---|
| 雇用関係 | 日本の会社に籍を置いたまま、シンガポールの拠点で働く(出向など) | シンガポールの会社と直接雇用契約を結ぶ |
| 勤務期間 | 会社の辞令で決まる。帰任がある | 雇用契約で決まる。帰任はない |
| 待遇の決まり方 | 日本の会社の赴任規程にもとづく | 現地の会社の規程と個別契約にもとづく |
| 住居・教育などの補助 | 規程で手当や補助が出ることが一般的 | 会社により有無や内容がさまざま |
| 日本の社会保険・年金 | 会社の制度と状況により継続することがある | 状況により扱いが変わる。個別に確認が必要 |
切り替えを考えるときは、就労パスの手続きだけでなく、待遇の変化を具体的に把握することが出発点になります。今受けている手当や補助のうち、何がなくなり、何を自分で負担することになるのかを書き出してから、次の会社の提示条件と比べてください。
切り替えの基本:新しい会社が新規にパスを申請する
EP と S Pass は、特定の雇用主のもとで働くことを前提に発行されます。駐在中に持っている EP も、今の雇用主にひもづいたものです。別の会社で現地採用として働くなら、その新しい会社が新しい EP または S Pass を MOM に申請します。今のパスを次の会社に持っていくことはできません。
MOM は、新しい EP を申請する前に今の EP をキャンセルする必要はないと案内しています。駐在員として働きながら、新しい会社の審査を待てるということです。帰任日が近いからといって、先にパスを手放す必要はありません。
一方で、新しい申請は案件ごとに審査されます。駐在員として EP を持っていたことは、現地採用での承認を約束するものではありません。給与、職務、新しい会社の状況をもとに、改めて審査されます。
同じ現地法人に現地採用で残る場合
赴任先の現地法人と改めて雇用契約を結んで残るケースもあります。この場合、パス上の雇用主が変わるかどうかで必要な手続きが変わる可能性があります。社内の人事と、パスの申請を担当する部署に、どの手続きが必要かを確認してください。
転職時のパス手続きの細かな流れは、転職の記事で詳しくまとめています。この記事では、駐在から切り替える場合に特に気をつけたい点を中心に説明します。
転職するときの EP・S Pass の手続きを確認する →新規申請、旧パスのキャンセル、STVP、IR21 の流れを順に解説しています。駐在時のパスのキャンセルと滞在
新しいパスが承認されても、駐在時のパスは自動ではキャンセルされません。MOM はその理由を、本人が今の雇用主のもとで通知期間を勤める必要があるためと説明しています。キャンセルは今の雇用主が EP eService で行います。
- キャンセルは最終勤務日から1週間以内に行う
- 最終勤務日の14日前から事前に申請できる
- キャンセルされた時点から、そのパスでは働けなくなる
- 家族のパス(DP など)も本人のパスと同時にキャンセルされる
駐在員の場合、キャンセルを担当するのは赴任元の会社や現地法人の人事です。帰任を前提に準備を進めている人事担当者は、本人が残ることを知らないまま、帰任日に合わせてキャンセルを予定しているかもしれません。残ると決めたら、キャンセルの予定日をすぐに確認し、新しいパスでの勤務開始とずれないよう調整してください。
キャンセル後に滞在を続ける必要があるときは、雇用主がキャンセル時に短期訪問パス(STVP)を申請できます。期間は EP なら最大90日、S Pass なら最大30日です。STVP は滞在のためのもので、働くことはできません。
| キャンセルするパス | STVP の期間 | 申請者 |
|---|---|---|
| EP | 最大90日 | 雇用主 |
| S Pass | 最大30日 | 雇用主 |
最低月給と年齢の基準
現地採用での申請は新規申請です。そのため、申請する時点の年齢と、その時点で有効な最低月給の基準が適用されます。駐在で EP を取ったときの基準は関係ありません。
EP と S Pass の最低月給は年齢とともに上がり、45歳以上で最も高くなります。駐在員は赴任時からある程度の経験を積んだ年代であることが多く、現地採用の提示額がこの基準に届くかどうかは早めに確認が必要です。基準と比べられるのは固定月給で、賞与や変動する手当は含まれません。
| 年齢 | EP 現行 | EP 2027年1月以降 | S Pass 現行 | S Pass 2027年1月以降 |
|---|---|---|---|---|
| 30歳 | S$7,223 | S$7,750 | S$3,777 | S$4,077 |
| 40歳 | S$9,541 | S$10,250 | S$4,459 | S$4,759 |
| 45歳以上 | S$10,700 | S$11,500 | S$4,800 | S$5,100 |
たとえば40歳の人が EP で現地採用される場合、現行基準では固定月給 S$9,541 以上が必要です。駐在時は手当込みで生活していた人でも、現地採用の契約では固定月給の額だけが基準と比べられます。金融業は別の、より高い基準が設けられています。
EP は最低月給を満たしたうえで、COMPASS で40点以上が必要です。COMPASS には、新しい会社の従業員の国籍構成や現地雇用への貢献など、会社側の状況で決まる項目があります。本人の経歴が同じでも、転職先によって点数が変わります。
年齢と月給で基準を確認する →年齢と提示された固定月給を入れて、EP・S Pass の最低月給に届くかを確認できます。2027年の引き上げ
MOM は最低月給の引き上げを発表しており、2027年1月1日以降の新規申請から新基準が適用されます。更新は、2028年1月1日以降に満了するパスから新基準です。現地採用への切り替えは新規申請なので、申請日が2027年1月1日以降なら新基準で審査されます。
帰任の時期が2026年末から2027年初めにかかる人は注意してください。申請日が年をまたぐだけで、30歳なら S$7,223 から S$7,750 に、45歳以上なら S$10,700 から S$11,500 に基準が上がります。提示額が基準に近い場合は、申請の時期を新しい会社と相談する価値があります。
家族(DP)への影響と帯同家族の就労
駐在員の家族は、本人の EP にひもづく DP で滞在していることが多いです。本人の駐在時のパスがキャンセルされると、家族のパスも同時にキャンセルされます。新しい会社でパスが承認されても、家族のパスが自動で引き継がれるわけではありません。
家族の滞在を続けるには、新しいパスをもとに家族のパスを改めて申請する必要があります。現地採用の条件で家族のパスを申請できるかは MOM の条件によるため、家族を帯同できるか、家族のパスの申請に新しい会社が対応してくれるかを、内定の段階で確認してください。
配偶者が DP で働いている場合も影響があります。MOM によると、DP 保持者がシンガポールで働くには、EP、S Pass、DP-WP のいずれかが必要です。DP がキャンセルされれば、DP を前提とした就労の手続きにも影響するおそれがあります。配偶者の勤務先にも早めに状況を伝え、必要な手続きを確認してください。
帯同家族の就労について確認する →DP 保持者が働くときのパスの選び方と手続きをまとめています。税金と CPF
居住者判定
シンガポールの所得税では、外国人は前の暦年に183日以上シンガポールに滞在または勤務していたかなどで、税務上の居住者かどうかが判定されます。駐在員としてすでに滞在している人が現地採用で働き続ける場合、滞在や勤務の日数が判定にどう関わるかを IRAS の案内で確認してください。
IR21(税務クリアランス)
外国人(PR を含む)の従業員が雇用を終えるとき、雇用主は離職の1か月以上前に Form IR21 を IRAS に提出し、その従業員に支払うべき金銭を留保します。駐在からの切り替えでも、今の雇用主との雇用が終わるなら、この手続きの対象になり得ます。
帰任の予定で IR21 の準備が進んでいる場合もあります。残ると決めたら、IR21 をいつ提出するのか、最終的な給与や精算金がいつ支払われるのかを人事に確認してください。税額や個別の扱いは状況によって異なるため、判断に迷うときは IRAS の案内を確認するか、専門家に相談してください。
CPF
CPF(中央積立基金)で雇用主に拠出義務があるのは、シンガポール国民(SC)と永住者(PR)の従業員です。外国人は対象外で、本人が希望しても拠出はできません。現地採用に切り替えても、就労パスで働く外国人である限り CPF の対象にはなりません。
日本側の手続き
駐在から現地採用に切り替えると、日本の会社との雇用関係がどうなるかによって、年金、健康保険、住民税などの扱いが変わることがあります。どの手続きが必要かは、雇用関係の整理の仕方や住民票の状況、家族の状況によって異なります。
この部分は一律には判断できません。今の勤務先の人事、年金事務所や自治体などの窓口、税理士などの専門家に、自分の状況を伝えて確認してください。
スケジュールの組み方
駐在からの切り替えでは、帰任日という期限が先に決まっていることが多く、そこから逆算して動くことになります。基本の順番は次のとおりです。
- 現地の会社から内定を得る。固定月給が申請時点の年齢の最低月給を超えているか確認する
- 新しい会社が EP または S Pass を新規に申請する。駐在時のパスはそのまま持っておく
- 新しいパスが承認される
- 今の勤務先に残る意向を伝え、退職日(最終勤務日)を調整する
- 今の雇用主が、最終勤務日から1週間以内に駐在時のパスをキャンセルする。IR21 も進める
- 新しいパスで、新しい会社での勤務を始める。家族のパスも新しいパスをもとに申請する
今の雇用主の側では、IR21 は離職の1か月以上前、パスのキャンセルは最終勤務日から1週間以内(14日前から事前申請可)という期限があります。帰任日の直前に切り替えを決めると、これらの手続きが帰任の準備と重なり、調整が難しくなります。残る可能性があるなら、帰任の辞令が出た時点で動き始めるのが現実的です。
| 手続き | 担当 | 時期の目安 |
|---|---|---|
| 新しい EP・S Pass の申請 | 新しい雇用主 | 内定後 |
| 残る意向の伝達と最終勤務日の調整 | 本人と今の雇用主 | 承認の見通しが立った後 |
| IR21 の提出 | 今の雇用主 | 離職の1か月以上前 |
| 駐在時のパスのキャンセル | 今の雇用主 | 最終勤務日から1週間以内(14日前から事前申請可) |
| STVP の申請(必要な場合) | 今の雇用主 | パスのキャンセル時 |
| 家族のパスの申請 | 新しい雇用主と本人で確認 | 新しいパスの承認後 |
| 日本側の年金・保険・住民税など | 本人(人事・窓口・専門家に確認) | 退職日が決まり次第 |
よくある失敗
帰任日に合わせてパスがキャンセルされる
人事が帰任を前提にキャンセルを予定していると、新しいパスの承認前に働けなくなるおそれがあります。キャンセルされた時点から就労はできず、家族のパスも同時にキャンセルされます。残ると決めたら、最初にキャンセルの予定を確認してください。
手当込みの感覚で給与を判断する
駐在時の生活水準は、手当や補助に支えられていることがあります。現地採用の条件を比べるときは、住居や教育費などを自分で負担する前提で生活費を見積もり、固定月給が最低月給の基準を超えているかも別に確認してください。
申請が年をまたいで基準が上がる
2027年1月1日以降の新規申請は新基準で審査されます。年末に内定し、申請が年明けにずれ込むと、想定より高い基準が適用されます。基準に近い提示額の場合は、申請日を意識して進めてください。
家族の手続きを後回しにする
本人のパスだけに目が向き、家族の DP が同時にキャンセルされることを見落とすケースです。子どもの学校や配偶者の仕事に影響するため、新しい会社が家族のパスの申請に対応するかを内定前後に確認してください。
日本側の手続きを確認しない
日本の会社を離れると、年金や保険、住民税の扱いが変わることがあります。自分では判断せず、人事や窓口、専門家に早めに確認してください。
切り替え前のチェックリスト
- 駐在時の手当や補助のうち、現地採用でなくなるものを把握したか
- 新しい会社の固定月給が、申請時点の年齢の最低月給を超えているか。2027年1月以降の申請なら新基準で確認したか
- EP の場合、新しい会社の条件で COMPASS 40点に届く見込みを会社に確認したか
- 新しいパスの承認後に、残る意向と退職日を伝える段取りになっているか
- 今の雇用主が駐在時のパスをキャンセルする日と、新しいパスでの勤務開始日がつながっているか
- IR21 の提出予定と、最終給与・精算金の支払い時期を人事に確認したか
- キャンセルから勤務開始までに空白がある場合、STVP を申請してもらうか決めたか
- 家族のパスが同時にキャンセルされる前提で、新しいパスでの家族のパスの申請を新しい会社と確認したか
- 配偶者が働いている場合、配偶者の勤務先に状況を伝えたか
- 日本側の年金・保険・住民税などを、人事や窓口、専門家に確認したか
よくある質問
+駐在員のまま、現地の会社に応募して新しいパスを申請できますか。
できます。MOM は、新しい EP を申請する前に今の EP をキャンセルする必要はないと案内しています。新しい会社が新規に申請し、承認後に今の雇用主が駐在時のパスをキャンセルする流れです。
+駐在で EP を取ったときの給与基準がそのまま使えますか。
使えません。現地採用での申請は新規申請なので、申請時点の年齢と、その時点の最低月給の基準が適用されます。2027年1月1日以降の新規申請では引き上げ後の基準です。EP は COMPASS 40点以上も必要です。
+帰任日を過ぎても、新しいパスの承認を待つ間シンガポールに滞在できますか。
駐在時のパスがキャンセルされると、そのパスでの滞在はできなくなります。キャンセル時に雇用主が STVP を申請すれば、EP の場合は最大90日、S Pass の場合は最大30日滞在できます。STVP の間は働けません。
+家族の DP はどうなりますか。
本人の駐在時のパスがキャンセルされると、家族のパスも同時にキャンセルされます。新しいパスをもとに家族のパスを改めて申請する必要があるので、新しい会社と段取りを早めに確認してください。
+現地採用になると CPF に加入しますか。
CPF で雇用主の拠出義務があるのは、シンガポール国民(SC)と永住者(PR)です。就労パスで働く外国人は対象外で、希望しても拠出はできません。
+日本の年金や住民税はどうなりますか。
日本の会社との雇用関係の整理の仕方や住民票、家族の状況によって扱いが変わります。一律には言えないため、勤務先の人事や窓口、専門家に確認してください。
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