シンガポールで働く日本人の税金の基本:所得税の税率・居住者の判定・申告と納税・CPF
最終確認:2026年9月29日
シンガポールの所得税は、前の年の所得に対して翌年に課税される仕組みです。税率は居住者か非居住者かで大きく変わり、申告は毎年3月から4月にオンラインで行います。この記事では、これからシンガポールで働く人やすでに働いている人が、自分の税金の流れをつかめるように、IRAS(内国歳入庁)と CPF の公式情報をもとに基本を整理します。
所得税の仕組み:前年の所得に課税される
シンガポールの個人所得税は、暦年(1月〜12月)の所得をもとに、翌年に税額が決まります。IRAS はこの課税年を「YA(Year of Assessment、賦課年度)」と呼びます。たとえば YA2026 は、2025年1月〜12月の所得に対する課税です。
日本の会社員に慣れていると、毎月の給与から税金が引かれ、年末調整で精算される流れを想像しがちです。シンガポールでは、本人が年に1回申告し、IRAS から届く税額通知に従って納める流れが基本です。働き始めた年は税金の請求がまだ来ず、翌年になってまとまった金額の通知が届くことになります。
| 所得を得た年 | 申告する時期 | 課税年(YA) |
|---|---|---|
| 2024年1月〜12月 | 2025年3月〜4月 | YA2025 |
| 2025年1月〜12月 | 2026年3月〜4月 | YA2026 |
| 2026年1月〜12月 | 2027年3月〜4月 | YA2027 |
このずれがあるため、働き始めて最初の1年は税金用のお金を別に取っておくと安心です。翌年の通知で慌てずに済みます。
居住者か非居住者か:判定の基準
税率を決める最初の分かれ道が、税務上の居住者(tax resident)かどうかです。これは国籍や就労パスの種類ではなく、シンガポールでの滞在や勤務の実態で判定されます。IRAS によると、外国人は次のいずれかに当てはまると居住者として扱われます。
- 前の暦年に、シンガポールに183日以上滞在または勤務した
- 3年連続でシンガポールに滞在または勤務した
- 2つの暦年にまたがって勤務し、連続して183日以上滞在または勤務した。この場合は両方の年が居住者扱いになる(取締役・芸能人・専門職は対象外)
3つ目の「2暦年にまたがる」ルールは、年の途中で着任した人に関係します。たとえば10月に働き始めた場合、その年の滞在は183日に届きません。それでも翌年まで連続して183日以上働けば、着任した年も居住者として扱われます。
1年以上有効な就労パスを持つ人
IRAS は、1年以上有効な就労パスを持つ外国人についても、居住者として扱う場合があるとしています。EP などで1年以上の雇用を前提に着任した人は、初年度から居住者として課税されることがあります。
ただし、この扱いは最終的なものではありません。離職時の税務クリアランス(後述の IR21)の段階で、実際の滞在日数などをもとに見直されます。予定より早く辞めて183日などの基準を満たさなかった場合、非居住者として税額が計算し直され、追加の納税が必要になることがあります。
判定は年ごとに行われる
居住者かどうかは課税年ごとに判定されます。同じ人でも、着任した年・フルに働いた年・離任した年で扱いが変わることがあります。自分がどの基準に当てはまるかは、IRAS の案内で確認してください。
居住者の税率:累進課税で0%〜24%
居住者の所得税は累進課税です。課税所得(所得から控除を差し引いた額)を段階に分け、上の段階ほど高い税率をかけます。YA2024 以降の税率は次のとおりで、YA2026 も同じです。金額はシンガポールドル(S$)です。
| 課税所得の段階 | 税率 | その段階までの累計税額 |
|---|---|---|
| 最初の S$20,000 | 0% | S$0 |
| 次の S$10,000(〜S$30,000) | 2% | S$200 |
| 次の S$10,000(〜S$40,000) | 3.5% | S$550 |
| 次の S$40,000(〜S$80,000) | 7% | S$3,350 |
| 次の S$40,000(〜S$120,000) | 11.5% | S$7,950 |
| 次の S$40,000(〜S$160,000) | 15% | S$13,950 |
| 次の S$40,000(〜S$200,000) | 18% | S$21,150 |
| 次の S$40,000(〜S$240,000) | 19% | S$28,750 |
| 次の S$40,000(〜S$280,000) | 19.5% | S$36,550 |
| 次の S$40,000(〜S$320,000) | 20% | S$44,550 |
| 次の S$180,000(〜S$500,000) | 22% | S$84,150 |
| 次の S$500,000(〜S$1,000,000) | 23% | S$199,150 |
| S$1,000,000 を超える部分 | 24% | - |
累計税額の列は、各段階の税率から計算した目安です。IRAS も同じ形で示しています。
計算の例
課税所得が S$100,000 の場合を考えます。S$80,000 までの累計税額は S$3,350 です。残りの S$20,000 には11.5%がかかり、S$2,300 になります。合計は S$5,650 で、課税所得に対する割合は約5.7%です。
このように、最高税率が高く見えても、その税率がかかるのは上の段階の部分だけです。所得全体にかかる実際の負担率は、表の税率よりかなり低くなります。「年収が上がったら税率が上がって手取りが減る」ということは起きません。
| 課税所得 | 税額 | 課税所得に対する割合 |
|---|---|---|
| S$60,000 | S$1,950 | 約3.3% |
| S$100,000 | S$5,650 | 約5.7% |
| S$150,000 | S$12,450 | 約8.3% |
| S$200,000 | S$21,150 | 約10.6% |
たとえば S$150,000 なら、S$120,000 までの累計 S$7,950 に、残り S$30,000 の15%(S$4,500)を足して S$12,450 です。自分の見込み年収から控除を引いた額を当てはめると、翌年の税額のおおよその見当がつきます。
居住者は、条件を満たせば所得控除(personal reliefs)を受けられます。控除を差し引いた後の金額が課税所得になり、上の表を当てはめます。どの控除が使えるかは家族の状況などで変わるため、IRAS の案内で確認してください。
非居住者の税率と短期雇用の扱い
居住者の基準を満たさない場合は非居住者です。非居住者の雇用所得(給与など)には、一律15%と、居住者の累進税率で計算した額のうち、高い方がかかります。非居住者は所得控除(personal reliefs)を受けられません。
たとえば雇用所得が S$80,000 なら、一律15%で S$12,000、居住者の税率で S$3,350 です。高い方の S$12,000 が税額になります。同じ所得でも、居住者か非居住者かで税額が大きく違うことが分かります。
| 項目 | 居住者 | 非居住者 |
|---|---|---|
| 雇用所得の税率 | 0%〜24%の累進課税 | 一律15%と居住者の累進税率の高い方 |
| 所得控除(personal reliefs) | 条件を満たせば受けられる | 受けられない |
| 取締役報酬など | 累進課税 | 24% |
60日以下の短期雇用は非課税
1暦年のうちシンガポールでの勤務が60日以下の短期雇用なら、その雇用所得は非課税です。短期の出張や派遣が対象になり得ます。ただし、取締役・芸能人・専門職はこの扱いの対象外です。
求人に応募してシンガポールで働く人の多くは、1年以上の雇用を前提にしているため、通常は居住者として課税されます。非居住者の扱いが問題になりやすいのは、年の途中で辞めて出国する場合や、短期間の勤務の場合です。
申告の流れ:毎年3月1日〜4月18日
所得税の申告期間は毎年3月1日から4月18日までです。YA2026(2025年の所得)の申告期限は2026年4月18日でした。申告は IRAS の myTax Portal で電子的に行います。
会社の AIS 参加で申告が楽になる
多くの会社は AIS(Auto-Inclusion Scheme、雇用所得の自動反映制度)に参加しています。AIS に参加している会社は、毎年3月1日までに従業員の前年の所得情報を IRAS に提出します。その情報が本人の申告書に自動で反映されるので、給与の金額を自分で入力する必要はありません。従業員が5人以上いる会社などは、AIS への参加が義務です。
さらに、IRAS が申告不要と判断した人は No-Filing Service(NFS)の対象になり、申告書を出さなくても、会社から届いた情報をもとに税額が計算されます。対象かどうかは IRAS からの案内で確認し、会社以外からの所得や使いたい控除がある場合の扱いも IRAS の説明を確認してください。
AIS に参加していない会社の場合
会社が AIS に参加していない場合は、会社が3月1日までに Form IR8A(前年の給与・賞与・手当などを記載した書類)を従業員に渡します。従業員はこの書類を見ながら、myTax Portal で自分の所得を入力して申告します。
- 3月1日まで:会社が所得情報を IRAS に提出(AIS)、または Form IR8A を従業員に交付
- 3月1日〜4月18日:本人が myTax Portal で申告(NFS の対象なら原則不要)
- 申告後:IRAS が税額を計算し、税額通知(Notice of Assessment)を送る
- 通知から1か月以内:納税(一括、または GIRO で分割)
入社したばかりの人は、自分の会社が AIS に参加しているかを人事に聞いておくと、翌年の申告の準備がしやすくなります。
納税:通知から1か月以内、GIRO で分割も
IRAS から税額通知が届いたら、通知の日から1か月以内に納税します。
まとめて払うのが負担な場合は、GIRO(銀行口座からの自動引き落とし)を申し込むと、最大12回の無利息の分割払いにできます。毎月の給与から少しずつ払う形にできるので、家計の管理がしやすくなります。
初年度の税金は翌年に来る
働き始めた年の所得に対する税金は、翌年の春以降に請求されます。1年目は手取りがそのまま残るように見えますが、その中から翌年の税金を払うことになります。毎月の生活費を決めるときは、税金の分をあらかじめ差し引いて考えてください。
離職・出国するときの税務クリアランス(IR21)
外国人(PR を含む)の従業員が会社を辞める場合や、シンガポールを離れる場合は、税務クリアランスという手続きがあります。会社は、離職日の1か月以上前に Form IR21 を IRAS に提出しなければなりません。
IR21 を提出すると、会社は本人に支払うべきお金(最後の給与や賞与など)をすべて留保します。この留保は、IRAS が税額を確定させ、税金が確実に納められるようにするためのものです。手続きが終わるまで、最後の給与などの受け取りが遅れることがあります。
- 退職日が決まったら、早めに会社に伝える。会社は1か月以上前に IR21 を出す必要がある
- 最後の給与が一時的に留保されることを前提に、帰国や引っ越しの資金を準備する
- 1年以上有効なパスで居住者扱いだった人は、実際の滞在日数で居住者判定が見直されることがある
- シンガポール国内で転職する場合の扱いは、退職する会社の人事に確認する
転職の場合の細かな扱いは会社や状況によって変わります。転職の進め方全体は、転職ガイドもあわせて読んでください。
CPF:外国人は対象外
CPF(Central Provident Fund、中央積立基金)は、シンガポールの社会保障の積立制度です。対象はシンガポール国民(SC)と永住者(PR)で、会社は月の賃金総額が S$50 を超える SC・PR の従業員について、CPF を拠出する義務があります。本人の給与からも一定額が差し引かれて積み立てられます。
一方、SC・PR 以外の外国人は、2003年から CPF の拠出が免除されています。EP や S Pass で働く日本人は CPF の対象外です。本人が希望しても、会社は外国人従業員のために CPF を拠出できません。
| 立場 | CPF | 給与への影響 |
|---|---|---|
| シンガポール国民(SC) | 対象(会社と本人が拠出) | 給与から本人分が差し引かれる |
| 永住者(PR) | 対象(会社と本人が拠出) | 給与から本人分が差し引かれる |
| 外国人(EP・S Pass など) | 対象外(希望しても拠出不可) | CPF の差し引きはない |
PR を取得すると CPF の対象になり、手取りの計算が変わります。PR の申請を考えている人は、この点も含めて検討してください。
給与を比べるときの注意
求人の給与を比べるときは、表示された金額がそのまま手取りになるとは限りません。次の点を意識すると、条件を正しく比べやすくなります。
- CPF の有無:SC・PR は給与から CPF の本人分が引かれるため、同じ額面でも外国人とは手取りが違う。SC・PR 向けの給与情報を参考にするときは注意する
- 所得税は年1回の申告にもとづいて翌年に請求される:給与からの差し引きの有無は会社に確認し、納税分を見込んで生活費を決める
- 居住者か非居住者か:短期間で辞める可能性がある場合、非居住者として税額が増えることがある
- 固定給と変動部分:賞与や手当がある場合、月給だけでなく年収で比べる。税金は年間の所得にかかる
- 会社負担の福利厚生:住宅手当・医療保険・帰国費用などは会社によって差が大きい。手当として支給されるものは課税対象になる場合があるので、扱いを確認する
日本の求人と比べる場合も、額面だけでなく、税金・社会保険・住居費を含めた実際の手元の金額で考えることが大切です。
シンガポールの求人を探す →就労パス別に求人を絞り込み、給与や条件を比べられます。シンガポールでの仕事の探し方 →求人の探し方と応募の進め方を整理したガイドです。着任から離任までの流れの例
ここまでの内容を、2026年4月に EP で着任し、1年以上働く人の例で時系列に並べます。実際の扱いは個人の状況で変わるため、あくまで流れをつかむための例です。
| 時期 | 起きること | 本人がすること |
|---|---|---|
| 2026年4月 | 着任。給与の支払いが始まる | 会社が AIS に参加しているか人事に確認する |
| 2026年中 | 2026年分の税金はまだ請求されない | 翌年の税金に備えて資金を分けておく |
| 2027年3月1日まで | 会社が IRAS に所得情報を提出、または Form IR8A を交付 | IR8A を受け取った場合は保管する |
| 2027年3月1日〜4月18日 | YA2027 の申告期間 | myTax Portal で申告(NFS の対象なら原則不要) |
| 申告の後 | IRAS から税額通知が届く | 通知から1か月以内に納税。GIRO なら分割も可能 |
| 離職・出国の1か月以上前 | 会社が Form IR21 を提出し、支払うべきお金を留保 | 退職日を早めに会社に伝え、資金繰りを準備する |
この例では、2026年の滞在は183日を超える見込みです。年の後半に着任して183日に届かない場合も、2暦年にまたがる連続183日以上の勤務や、1年以上有効な就労パスの保持によって居住者として扱われる場合があります。2年目以降は、毎年同じ時期に申告と納税を繰り返します。
日本側の手続きについて
シンガポールで働き始めると、日本側の税金や手続きの扱いも変わります。ただし、その内容は日本での住所の有無や出国の時期、日本に残る所得などによって異なります。日本側の具体的な手続きは、出国前に日本の税務署や税理士などの専門家に確認してください。
個別の判断は専門家へ
この記事は制度の一般的な仕組みをまとめたもので、個別の税務アドバイスではありません。税率や手続きは変わることがあります。自分のケースでの居住者判定や税額、控除の使い方は、IRAS の公式情報を確認するか、IRAS や税理士などの専門家に相談してください。
よくある質問
+シンガポールの所得税はいつ払いますか。
前の年(1月〜12月)の所得について、毎年3月1日〜4月18日に申告し、IRAS から届く税額通知の日から1か月以内に納めます。GIRO を申し込めば最大12回の無利息分割にできます。
+シンガポールの税務上の居住者になる条件は何ですか。
外国人の場合、前の暦年に183日以上滞在・勤務した、3年連続で滞在・勤務した、2暦年にまたがって連続183日以上勤務した、のいずれかに当てはまると居住者です。1年以上有効な就労パスを持つ人も居住者として扱われる場合があり、離職時に見直されます。
+シンガポールの所得税率はいくらですか。
居住者は課税所得に応じて0%から24%の累進課税です。最初の S$20,000 は0%で、課税所得 S$80,000 なら税額は S$3,350、S$120,000 なら S$7,950 です。非居住者の雇用所得は一律15%と累進税率の高い方がかかります。
+外国人は CPF に加入できますか。
できません。CPF の対象はシンガポール国民と永住者です。外国人は2003年から拠出が免除されており、本人が希望しても会社は拠出できません。
+会社を辞めて帰国するときに税金の手続きはありますか。
あります。会社は離職日の1か月以上前に Form IR21 を IRAS に提出し、本人に支払うべきお金を留保します。IRAS が税額を計算するまで、最後の給与などの受け取りが遅れることがあります。
+給与の金額は自分で申告書に入力する必要がありますか。
会社が AIS に参加していれば、会社が提出した所得情報が申告書に自動で反映されます。AIS に参加していない会社の場合は、会社から受け取る Form IR8A をもとに自分で入力します。
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