シンガポールで解雇・整理解雇(リストラ)されたとき:手当、最終給与、就労パスと相談先
最終確認:2026年10月3日
シンガポールでは、会社は理由を示さなくても、契約の予告期間を守れば雇用を終わらせることができます。整理解雇(retrenchment。いわゆるリストラ)の手当も、法律で必ず払うものとは決まっていません。一方で、EP や S Pass で働く外国人は、仕事を失うと滞在の根拠になるパスも失います。この記事では、MOM(人材開発省)、政府・労使の三者による勧告、IRAS(内国歳入庁)の公式情報をもとに、解雇・整理解雇を告げられたときに確認したいことを整理します。
会社から雇用を終わらされる3つの形
会社が雇用を終わらせる形は、大きく3つに分かれます。どれにあたるかで、予告の有無、受け取れるお金、納得できないときの争い方が変わります。まずは会社からの書面で、どの形なのかを確認しましょう。
| 予告による解雇 | 懲戒解雇(misconduct) | 整理解雇(retrenchment) | |
|---|---|---|---|
| どんな場合 | 契約の予告期間に従って会社が終了する。理由の説明は不要 | 盗み・不正・職場での秩序を乱す行為・命令違反など | 人員の余剰や事業の再編で、仕事そのものがなくなる |
| 予告 | 契約の予告期間(または予告期間分の給与) | 調査のうえ、予告なしで解雇できる | 契約の予告期間(勧告ではより長い予告が望ましいとされる) |
| 特別な手当 | なし | なし(予告期間分の給与もない) | 整理解雇の手当(法律上の義務はない。契約などで決まる) |
| 使わなかった年休 | 支払われる(契約も確認) | 失われる | 支払われる(契約も確認) |
MOM は、会社が「その仕事を近いうちに埋める予定がないまま」契約を終わらせた場合、整理解雇をしたものとみなすとしています。名目が「予告による解雇」でも、実態が人員削減なら整理解雇として扱われます。なお、MOM の FAQ では、外国人の就労パスをキャンセルすることが、そのまま整理解雇を意味するわけではないとされています。
予告による解雇:理由がなくても終了できる
シンガポールの雇用契約は、会社と従業員のどちらからでも、予告期間(notice period)を守れば終わらせることができます。MOM は、会社は契約終了の理由を示す必要がないと案内しています。予告は書面(解雇通知の手紙やメール)で行い、渡されていなければ会社に求めることができます。
- 予告期間の長さは、雇用契約に書かれたとおり。契約に定めがなければ、勤続期間に応じた法定の期間になる
- 会社は、予告期間分の給与(salary in lieu of notice)を払えば、予告期間を待たずにすぐ終了できる
- 成績不良を理由にする場合、会社は予告なしでは解雇できない。予告による解雇で成績不良を理由にするなら、会社がそれを裏づける必要がある
- 会社は、本人の同意なく雇用条件を変えることはできない。合意できなければ、どちらも予告によって契約を終えることになる
懲戒解雇:会社は先に調査(inquiry)をする
予告なしで解雇できる正当な理由は、不正行為(misconduct)だけです。MOM の案内では、会社は処分を決める前に、正式な調査(inquiry)を行わなければなりません。決まった手順はありませんが、次の点が目安として示されています。
- 疑われている行為の内容を、本人に伝える
- 本人が説明する機会を設ける
- 調査を担当する人は、かたよった判断を疑われる立場の人にしない
| 場面 | 内容 |
|---|---|
| 調査中の停職 | 1週間まで(延ばすには労働局長の承認が必要)。停職中も給与の半分以上が支払われる |
| 不正がなかった場合 | 停職中に払われなかった給与が全額戻される |
| 不正があった場合 | 会社は「すぐの降格」「1週間以内の無給の停職」「予告なしの解雇」のどれか1つを選ぶ |
懲戒解雇では、予告期間分の給与は払われず、使っていない年次有給休暇も失われます。また、会社の承認や連絡なしに2営業日を超えて続けて休むと、契約違反として予告なしで解雇されることがあります。予告なしの解雇を争う場合は、解雇が正当だったことを会社の側が示す必要があります。
整理解雇(リストラ)の決まりごと
整理解雇は、人員の余剰や事業の再編を理由にした解雇です。正社員のほか、契約期間が6か月以上の契約社員も対象になります。整理解雇のやり方については、政府(MOM)・労働組合(NTUC)・経営者団体(SNEF)の三者が出した勧告(Tripartite Advisory on Managing Excess Manpower and Responsible Retrenchment)があり、MOM は会社にこれに従うよう強く求めています。法律そのものではありませんが、会社の対応が妥当かを考えるときの基準になります。
- 整理解雇は最後の手段。その前に配置転換、勤務日の短縮、一時帰休、賃金の調整などを検討する
- 対象者は、能力・経験・スキルなど客観的な基準で選び、その基準を一貫して当てはめる。年齢・人種・性別・宗教・婚姻・家族の事情・障害による差別はしない。高年齢の人や妊娠中の人を不当に選ばない
- 個人に通知する前に、会社の状況、進め方、考慮する要素、支援の内容を従業員に説明する
- 通知はできるだけ対面で行う。正当な理由がなければ、その場ですぐに退去させたり、警備員に付き添わせたりしない
- 可能なら、契約や法律より長い予告期間を設ける
- 再就職の支援をし、紹介状や在籍の記録、研修の修了証など、就職活動に役立つ書類を渡す
外国人が知っておきたい一文
この勧告には、整理解雇の結果として現地の従業員(シンガポール国民・PR)の割合が下がらないようにし、そのために現地の従業員を比較的多く残す、という趣旨の項目があります。対象者は客観的な基準で選ぶのが前提ですが、会社が人員を減らすときには、こうした考え方も示されていることを知っておきましょう。
従業員が10人以上の会社は、整理解雇を本人に通知してから5営業日以内に、MOM へ届け出る義務があります(Mandatory Retrenchment Notifications)。従業員数には外国人も含まれます。これは会社の手続きで、従業員が自分で何かを出す必要はありません。
整理解雇の手当:法律上の義務はなく、相場がある
整理解雇の手当(retrenchment benefit)は、仕事を失うことへの補償です。MOM は、法律で義務づけられたものではないとしたうえで、三者の勧告に沿って支払うよう会社に強く求めています。金額は、まず雇用契約や労働協約の定めに従い、定めがなければ会社との話し合いで決まります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | その会社での勤続が2年以上の人 |
| 勤続2年未満 | 相場の対象外。会社の好意で一時金(ex-gratia payment)が出ることはある |
| 相場 | 勤続1年につき給与の2週間分〜1か月分(会社の財務状況や業界によって変わる) |
| 労働組合のある会社 | 労働協約に定めがある場合、勤続1年につき1か月分が相場 |
| 賃金カットの直後の場合 | カットされる前の給与で計算する |
国籍によって扱いを変えるという記載は、公式の案内には見当たりません。雇用契約に手当の定めがあるのに支払われない場合は、最終勤務日から6か月以内に TADM(労使紛争の調停機関)へ請求できます。契約に定めがない場合は、請求ではなく会社との交渉になります。提示された内容に疑問があれば、内訳(どの部分が何のお金か)を書面でもらいましょう。
手当にかかる税金
| お金の種類 | 所得税 |
|---|---|
| 職を失うことへの補償(compensation for loss of office) | かからない |
| 予告期間分の給与(payment in lieu of notice) | かかる |
| 好意の一時金(ex-gratia)・退職慰労金(gratuity) | かかる |
| 再就職支援のサービス(条件を満たすもの) | かからない |
IRAS は、課税されるかどうかは名目ではなく中身で判断するとしています。課税される分は、受け取った年ではなく、受け取る権利が生じた年(通常は整理解雇された年)の所得になります。
妊娠中の整理解雇
妊娠中に整理解雇された場合、一定の条件を満たせば、会社は整理解雇の手当とは別に出産休暇の給与を支払う必要があります。くわしくは産休・育休の記事を見てください。
最終給与はいつ払われるか
| 終わり方 | 最終給与の期限 |
|---|---|
| 会社が契約を終了(予告による解雇・整理解雇) | 最終日。無理な場合は終了日から3営業日以内 |
| 懲戒解雇 | 最終日。無理な場合は解雇日から3営業日以内 |
| 本人が辞め、予告期間を勤めた | 最終日 |
| 本人が辞め、予告期間を勤めなかった | 最終日から7日以内 |
ただし、外国人の場合は例外があります。会社は税務清算(IR21)のために、給与や休暇の精算金など本人に払うお金を留保する義務があり、MOM の案内では、IRAS に退職を知らせてから最大30日間留保されます。最終給与がすぐに入らない前提で、生活費を用意しておきましょう。PR の場合は、シンガポールを離れないことを本人が書面で約束すれば、税務清算は不要です。
退職・帰国するときの手続き →税務清算(IR21)の流れ、留保されたお金で税額が足りない場合の扱いをまとめています。EP・S Pass はどうなるか
EP や S Pass は、その会社で働くことを前提にしたパスです。雇用が終わると、会社がパスをキャンセルします。MOM が会社に求めていることと、本人への影響は次のとおりです。
- キャンセルの期限は、予告期間の最終日から1週間以内(14日前から事前に手続きできる)
- キャンセルの前に、会社は給与などの未払いを精算し、帰国の航空券(受託手荷物つき)を用意する。本人が署名した書面で自己負担に同意していない限り、帰国の費用は会社の負担
- キャンセルされた時点から、出国を待つ間も働けない
- シンガポールに残る場合は、会社が短期訪問パス(STVP)を申請する。EP は最大90日、S Pass は最大30日。自動では出ない
- 家族の DP・LTVP も同時に取り消され、元に戻せない
予告期間中はパスが有効で、これまでどおり働けます。予告期間を勤めずに給与で精算すると、雇用の終わりが早まり、パスのキャンセルもそれに合わせて早くなると考えておきましょう。キャンセルの予定日と STVP の申請を、会社の人事担当者に早めに確認してください。
シンガポールで次の仕事を探す場合、新しい会社が新しいパスを申請します。今のパスが有効なうちに申請してもらえれば、パスが途切れずに済みます。STVP の期間中に就職活動をしてよいか、その間に新しいパスを申請できるかを明記した公式の案内は確認できなかったため、その時期に入る場合は MOM に確認してください。
シンガポールで転職するときの EP・S Pass の手続き →今のパスを残したまま新しいパスを申請できることと、キャンセルの順番をまとめています。PR の場合の違いと、公的な支援
- CPF:予告期間中に働いた分の給与には CPF の拠出があるが、予告期間分の給与(salary in lieu of notice)と整理解雇の手当には拠出がない
- PR はパスのキャンセルや STVP の問題がないため、そのままシンガポールで仕事を探せる
- SkillsFuture Jobseeker Support:本人の意思によらず失業した21歳以上のシンガポール国民・PR に、6か月で最大 S$6,000 を支給する制度。過去12か月の平均月収が S$5,000 以下で、そのうち6か月以上シンガポールで働いていたことなどが条件
三者の勧告は、会社に再就職の支援を求めており、政府の機関(SWDA。旧 WSG)や労働組合系の支援機関と連携するよう書いています。ただ、こうした公的な支援は主に国民・PR を対象にしたものです。EP・S Pass の人は、会社の再就職支援(アウトプレースメント)があるかを確認し、なければ自分で求人を探すことになります。
シンガポールの日本語求人一覧 →日本語を使う求人を、就労パスの種類で絞り込んで探せます。納得できないとき:期限は最終勤務日から1か月
正当な理由のない解雇(wrongful dismissal)だと考える場合は、TADM に申し立てられます。外国人も利用できます。MOM が不当な解雇の例として挙げているのは、差別(年齢・人種・性別・宗教・婚姻・家族の事情・障害)による解雇、出産の給付などを受けさせないための解雇、TADM への相談など権利を使ったことへの仕返しとしての解雇です。
| 内容 | 期限・条件 |
|---|---|
| 不当解雇の申し立て | 最終勤務日から1か月以内(妊娠中に解雇され出産の給付を受けていない人は、出産から2か月以内) |
| 管理職・専門職(予告または予告期間分の給与で解雇された場合) | その会社で6か月以上働いていることが条件 |
| 給与や契約上の手当(整理解雇の手当を含む)の請求 | 最終勤務日から6か月以内 |
誰が立証するかも、解雇の形で変わります。予告なしの解雇では、会社が解雇が正当だったことを示します。予告による解雇(予告期間分の給与を払った場合を含む)では、本人が不当だったことを示す必要があります。人員の余剰による解雇そのものは正当な理由とされていますが、対象者の選び方が差別によるものだと考える場合は相談してみましょう。調停でまとまらなければ雇用請求審判所(ECT)で扱われ、不当と判断されると、復職と失った収入の支払い、または補償金の支払いが命じられます。
職場トラブルの相談先 →TADM への相談の流れと、準備しておく書類をまとめています。解雇・整理解雇を告げられたら確認すること
- 解雇の通知を書面(手紙かメール)でもらう。最終勤務日と、解雇の形(予告による解雇・懲戒解雇・整理解雇)を確認する
- 予告期間を勤めるのか、予告期間分の給与で精算するのか
- 整理解雇の手当の額と計算の根拠(雇用契約・就業規則に定めがあるか)。内訳を書面でもらう
- 未使用の年次有給休暇の精算、最終月の給与、賞与の扱い
- 税務清算(IR21)で留保されるお金と、支払われる時期の見込み
- パスのキャンセル予定日、STVP の申請、家族のパスの扱い
- 帰国する場合の航空券の手配(会社の負担が原則)
- 紹介状や在籍の証明など、次の就職で使える書類
- 納得できない点があれば、最終勤務日から1か月以内(不当解雇)・6か月以内(給与や手当)の期限を意識して早めに TADM に相談する
よくある質問
+シンガポールでは、理由を言われずに解雇されることがありますか?
あります。MOM の案内では、会社は契約の予告期間を守る(または予告期間分の給与を払う)限り、理由を示さずに契約を終了できます。ただし、差別や、出産の給付などを受けさせないための解雇は不当解雇にあたり、最終勤務日から1か月以内に TADM に申し立てられます。
+整理解雇の手当は必ずもらえますか?
法律上の義務ではありません。金額は雇用契約や労働協約で決まり、定めがなければ会社との話し合いになります。MOM と三者の勧告では、勤続2年以上の人に、勤続1年につき給与の2週間分〜1か月分が相場とされています。
+勤続2年未満で整理解雇されました。手当はありませんか?
勤続2年未満は相場の対象外ですが、MOM は会社の好意で一時金(ex-gratia payment)が出ることがあるとしています。雇用契約に手当の定めがあれば、それに従って受け取れます。
+EP で整理解雇されたら、すぐに帰国しなければなりませんか?
予告期間中はパスが有効で働けます。雇用が終わると会社がパスをキャンセルし、その後も残る場合は会社が STVP(EP は最大90日)を申請します。キャンセルの後は働けません。次の仕事を探すなら、今のパスが有効なうちに新しい会社にパスを申請してもらうと安心です。
+整理解雇の手当に税金はかかりますか?
IRAS によると、職を失うことへの補償の部分は課税されません。予告期間分の給与、好意の一時金、退職慰労金は課税されます。名目ではなく中身で判断されるので、会社に内訳を確認してください。
+懲戒解雇されると、何も受け取れませんか?
予告期間分の給与は払われず、使っていない年次有給休暇も失われます。ただし、最終日までに働いた分の給与は、最終日(無理な場合は3営業日以内)に支払われます。会社は解雇の前に調査を行う必要があり、予告なしの解雇を争う場合は会社が正当性を示す必要があります。
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